低解約返戻金型保険<名義変更プラン封じ込め>

低解約返戻金型保険とは

 契約当初は保険料が割高な上に解約返戻金も極端に低く抑えられていますが、一定のタイミングで解約返戻金が急増するように設定されている保険商品です。

節税保険

 この保険は、中小企業経営者の節税目的としても使われてきました。保険の譲渡額は、譲渡時の解約返戻金額相当額で評価されるため、法人が契約者として割高な保険料を負担し、解約返戻金が急増する直前に契約者名義を経営者個人に変えるという手法です。法人は割高な保険料を損金処理でき、経営者は著しく低い解約返戻金相当額で保険を手に入れ、名義変更後、急増した際に受け取る解約返戻金は一時所得(1/2課税)となります。

節税効果の具体例

 5年目に法人から個人経営者に名義変更し、個人経営者は急増した6年目に解約返戻金を受け取る。
・毎年の保険料 1,000(40%が損金計上)
・5年目の解約返戻金 保険料の5%(1,000×5年×5%=250)
・6年目の解約返戻金 保険料の80%(1,000×6年×80%=4,800)

<法人の処理>
①1年~5年目 
 保険料支払額  1,000×5年=5,000(内 2,000は損金計上、3,000は資産計上)
 会計仕訳 (借方)保険料 2,000  (貸方)現金 5,000
          保険積立金 3,000
②名義変更時(5年目)
 保険の譲渡額受取り 250(解約返戻金相当額)
 会計仕訳 (借方)現金 250    (貸方)保険積立金 3,000
          雑損 2,750
結果的に4,750が損金処理できる。

<個人経営者の処理>
①名義変更時(5年目)
 保険の譲渡額支払い 250 (解約返戻金相当額)
②解約時(6年目)
 保険料支払い 1,000
 解約返戻金受取り 4,800
解約返戻金4,800を得るために支払ったのは、わずか1,250
解約返戻金は、一時所得課税(1/2課税)

通達改正(節税効果封じ込め)

 これまでも、がん保険、逓増定期保険、長期平準保険などの節税商品が規制されてきましたが、この低解約返戻金型保険についても、令和3年6月25日に改正所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)が公表されました。

 解約返戻金が、法人が資産計上している保険積立金の70%未満の場合は、資産計上額を評価額とするものです。すなわち、名義変更時点で、それまで支払ってきた保険料と解約返戻金に大きな階差がある場合は、解約返戻金相当額での譲渡を認めないというものです。

 前述の具体例では、保険の譲渡額は250ではなく3,000となり、節税の妙味は薄れてしまいます。

<法人の処理>
①1年~5年目 
 保険料支払額  1,000×5年=5,000(内 2,000は損金計上、3,000は資産計上)
 会計仕訳 (借方)保険料 2,000  (貸方)現金 5,000
          保険積立金 3,000
②名義変更時(5年目)
 保険の譲渡額受取り 3,000(保険積立金相当額)
 会計仕訳 (借方)現金 3,000    (貸方)保険積立金 3,000
損金処理できるのは、2,000のみ

<個人経営者の処理>
①名義変更時(5年目)
 保険の譲渡額支払い  3,000(保険積立金相当額)
②解約時(6年目)
 保険料支払い 1,000
 解約返戻金受取り 4,800
解約返戻金4,800を得るために支払ったのは、4,000
解約返戻金は、一時所得課税(1/2課税)

適用時期(遡及効?)

 規制対象となるのは、平成元年7月8日以後に締結した保険契約で、令和3年7月1日以降に行われる名義変更です。

 ここで注目したいのは、規制される契約の締結時期が、改正通達公表より約2年遡っている点です。法令(通達)発効日以前にその効果を及ぼす「遡及効」ではないかとの疑念が残りますが、あくまでも名義変更を規制対象とするため、契約の締結時期は関係ないということのようです。改正通達公表前に節税効果を期待して 低解約返戻金型保険を契約した中小企業経営者にとっては、酷な一面もあると言えます。

適用範囲

 規制対象となるのは、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用のあるのものに限られています。したがって、 法人税基本通達 の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」や「養老保険」については、本適用はありませんが、今後、見直しの可能性はあると思われます。