海外勤務者の一時帰国に係る課税関係 <第1回>
まえがき
長期間に及ぶコロナ禍の影響により、海外現法への出向者が一時帰国して、日本で勤務しているケースが多いと聞いています。
この場合の現法出向者の給与の課税関係はどうなるのでしょうか。現法出向者の給与は海外現法が支給し、留守宅手当(格差補てん)を日本法人が支給するという前提で検討しましょう。
海外現法出向者の課税関係
海外現法へ1年以上の勤務予定で出向する従業員については、日本の所得税法上、出国の翌日より非居住者に該当し、国内源泉所得のみが課税されます。
1 海外現法が支給する給与
現地での勤務の対価であり、国外源泉所得となることから日本では課税されません。
2 日本法人が支給する給与(留守宅手当)
現地で勤務していることに起因して支払われるものであり、国外源泉所得となることから日本で
は課税されません。
日本に出張(一時帰国して日本で勤務)した場合
1 海外現法が支給する給与
(所得税法)
日本出張期間に対応する部分は、国内源泉所得として日本で確定申告する必要があります。
(租税条約)
日本出張期間に対応する部分があったとしても、短期滞在者免税条項により滞在日数が183日
以内であれば免税となります。183日を超える場合は、国内法の規定により国内源泉所得として
日本で確定申告する必要があります。
★租税条約(短期滞在者免税の要件)
①滞在地国(日本)での滞在日数が暦年183日以内
②給与が滞在地国(日本)の法人から支払われないこと
③給与が滞在地国(日本)の恒久的施設(PE)によって負担されないこと
★租税条約が国内法に優先する
2 日本法人が支給する給与(留守宅手当)
(所得税法)
日本出張期間に対応する部分は、国内源泉所得として源泉徴収する必要があります(非居住者
として20.42%)。
また、支給される賞与の計算期間の中に、日本出張期間に対応する部分がある場合は、同様に
源泉徴収する必要があります。
(租税条約)
短期滞在者免税の要件②を満たさないことから免税とはなりません。
コロナ禍の影響(まとめ)
コロナ禍の影響により、現法出向者が一時帰国したが、海外に戻れず日本で勤務する期間が183日を超えるケースが多くなっているようです。
この場合、日本出張期間に対応する部分について、海外現法が支給する給与については日本で確定申告が必要となり、日本法人が支給する給与については非居住者として源泉徴収が必要になります。コロナ禍という想定されなかった事態によるものであり、従業員及び法人とも当該処理を失念しやすいことから注意が必要です。
なお、海外現法が支給する給与について二重課税となる場合は、現地(居住地国)において外国税額控除の適用が可能か検討することになります。
区 分 | 海外現法支給給与 | 日本法人支給給与 |
日本出張期間183日以内 | 免税 | 源泉徴収 |
日本出張期間183日超 | 確定申告 | 源泉徴収 |
次回ブログでは、海外支店勤務者について見ていきたいと思います。