決算賞与 <第2回>

売上原価に計上した場合

 未払決算賞与を「販管費」ではなく「売上原価」に計上した場合はどうなるのでしょうか。
工場を有する会社で、未払決算賞与を、本社社員は「販管費」に工場社員は「売上原価」(製造原価報告書の労務費)に計上した場合です。

 販管費に計上した本社社員については、前回ブログのとおり、法人税法施行令第72条の3第2号の規定に基づき債務確定の有無により判定されます。

 売上原価に計上した工場社員の未払決算賞与について検討しましょう。売上原価は、収益費用対応の見地から、債務が確定していなくても、支出することが相当程度の確実性をもって見込まれ、かつ、当期末日の現況によりその金額を適正に見積もることができる場合に限り、見積原価を計上できます(法基通2-2-1)。ということは、期末までに決算賞与を適正に見積もっていれば、期末までに社員に支給額を通知していなくても、当期の損金算入が認められるのでしょうか。そうすると本社と工場で税務上の処理が泣き別れになるという大きな矛盾が発生します。

大阪高裁判決(H21.10.16)

 これについて、大阪高裁判決(H21.10.16)では、次のとおり判示しています。

 法人が支給額の決定をしただけでは、それは法人内部のことに過ぎず、実際に使用人賞与を支給するか否か又は支給金額の確実性が客観的に明確であるといえない。したがって、債務として確定しているか否か(販管費)、当事業年度の収益に対して適正な見積りができるか否か若しくは支出されることが確実か否か(売上原価)を判断することは困難である。

 仮にそのような判断が可能だとしても、その処理が法人ごとに千差万別になり、恣意的な判断がされるおそれもある。その結果、使用人賞与の損金算入時期は法人ごとに不統一になり、また、同一法人においても売上原価に当たる使用人賞与と販管費に当たる使用人賞与が異なる事業年度に算入される事態も起こり得る。このような問題点を考慮すれば、法人税法第22条第3項第1号及び第2号の定めだけでは課税の公平を確保することが困難であるため、使用人賞与の適用に当たって規定されたのが法人税法施行令第72条の3(旧法令第134条の2)である。

まとめ

 判旨からみると、使用人に対する支給(通知)をもって、法人による最終的・確定的意思決定の外部表示となるものであり、その通知がない限り、適正な原価の見積りはできないという前提のようですね。したがって、売上原価に計上した場合も、法人税法施行令第72条の3第2号の規定に基づいて判断することになります。確かに同一法人で、損金算入時期が異なるというのは本末転倒ですね。